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悪魔のいけにえ

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(原題:The Texas Chainsaw Massacre 1974年/アメリカ 84分)
監督/トビー・フーパー、脚本/キム・ヘンケル 製作/ジェイ・パースレイ 撮影/ダニエル・パール 美術/ロバート・バーンズ 音楽/ウェイン・ベル 編集/ラリー・キャロル、サリー・リチャードソン
出演/マリリン・バーンズ、アレン・ダンジガー、ポール・A・パーテイン、ウイリアム・ヴァイル、テリー・マクミン、ジム・シードー、エド・ニール、ガンナー・ハンセン、ジョン・デュガン

概要とあらすじ
旅行中の若者たちがテキサスの片田舎でふと立ち寄った一軒屋で出会った殺人鬼一家。実際に起きた事件を基に、これが商業デビューとなったフーパーが、アングラ的な中にエキサイティングな演出を見せて観る者を圧倒させる。レザーフェイスと呼ばれる、人の顔の皮を被り電動ノコギリをふりかざす大男の存在感と、狂気に溢れた幕切れのショック! 以降のホラーに多大な影響を与えたこの作品の異様さは、例えようが無い。(allcinemaより)



チェーンソーで殺すのは意外と一人だけ。

僕にとっての『悪魔のいけにえ』
『死霊のはらわた』と並んで、絶対に譲れないホラーの名作で
レンタルしたVHSをダビングして繰り返し観たものですが
『飛びだす 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲』 という
続編が公開され、しかもオリジナルのその後を描いているとあって
ウン十年ぶりに見直してみることにしたのです。

HDリマスターされたBlu-Rayの映像は驚くほど色鮮やかで、
16mmフィルムで撮影されたザラザラとした質感の
生々しさが損なわれるんじゃないかと思いましたが
デメリットよりも、新たな発見をもたらすメリットのほうが
多いんじゃないかと感じました。
言わずもがな、それは僕の頼りない記憶力のせいではあるのですが
新鮮な驚きと共に、改めて並の作品じゃないことを
思い知らされることになったのです。

この作品を、夢中になって観ていた頃は
冒頭からずっと漂う不吉な違和感に耐えられなかったのですが
(耐えられないのに夢中になるとはどういうことかとお思いでしょうが
 ホラー映画好きの心理とはそういうもんです)
決定的な事件が起こるまでの不吉な時間は記憶の印象よりも長く
サイコ・スリラーの一面が強調されているのがわかります。
全編を通して流れる音楽も観客を脅かそうという目的ではなく
心理的な不均衡を表現しているように思います。
音といえば、オープニングから聞こえてくる
カメラのフラッシュをたいたあとの「きゅい〜ん」という音が
不気味でキャッチーですね。

縁起の悪い雑誌の占いや、
ヒッチハイカー(エド・ニール)
フランクリン(ポール・A・パーテイン)を写した写真を火薬で燃やしたり、
車体に血で文字のようなものを書き残したりするのは
呪術的ではありますが、あくまで不吉さを演出するためのモチーフでしかなく
これから起きる惨劇の根拠や動機のようなものではありません。
とにかく、不吉な違和感こそが重要で
道中のうだるよう暑さに加えて、単に二組のカップルの旅行ではなく
車椅子に乗った足の不自由なフランクリンの存在
喉に刺さった小骨のように観客を不機嫌にさせるのです。
いかにも足手まといで、まず最初に「いけにえ」になりそうに
演出されているフランクリンが、ナイフをなくしてしまう細かいシークエンスも
不安を煽る要素となっているのではないでしょうか。
また、凶行を行なうキチガイ一家だけでなく、
ひとりぼっちになったフランクリンが
「ブブーッ」っと唇を振るわせて愚痴をこぼす仕草も
観客にとっては不快感たっぷりです。
二人っきりになったフランクリンとサリーの
懐中電灯を巡る長々としたやりとりもいらいらを増幅させます。

未見の方に、ぜひ堪能していただきたいのは
車中でのヒッチハイカー(エド・ニール)の演技です。
この気味悪さといったらありません。
ヒッチハイカーの挙動を見つめる旅行グループたちの
警戒心に溢れた態度は観客の心理そのものです。

長々と不吉な要素を積み重ねたあと、
引き寄せられるかのように
キチガイ一家・ソーヤー家の屋敷を訪れてしまう
カーク(ウイリアム・ヴァイル)パム(テリー・マクミン) ですが
嫌〜な空気を漂わせながらも、弛緩したシーンの連続が
レザーフェイス(ガンナー・ハンセン)
突然の登場によって断ち切られます。
頭をハンマーで殴られ、床に倒れたカークの痙攣も強烈に恐ろしいですが
その直後にレザーフェイスがダンっ!と閉めるスチール製の引き戸
凶行の幕開けを告げると共に、最高に恐ろしくて
キターーーーー!! ってなります。

庭のブランコに座っていたパムの背後から、ブランコの下をくぐって、
屋敷を見上げるようにパムの背中を負うカメラワークが
もう逃げられないぞという恐怖を煽りますが
大男のレザーフェイスがパムを捕まえて抱きかかえるカットは
抗いがたい暴力を感じます。
レザーフェイスに捕まったパムは、
その後フックに釣られることになるのですが
そのパムの目の前で、カークの死体をチェーンソーで切り刻むレザーフェイス。
……こんなこと、体験せずに人生を全うしたいものですな。

この作品を並々ならぬものにしているのは
やはり、ソーヤー家の面々のキチガイっぷり。
ホラー映画のキャラクター的には、
レザーフェイスが筆頭に上がるのは致し方ないとしても
この作品の恐怖を彩っているのは
この家族全員の「自然な発狂ぶり」です。
「自然な発狂ぶり」などと、なにをわけのわからないことを
言ってやがると思うかも知れませんが
俳優たちがキチガイたちを演じているというより、
カメラが本物のキチガイたちを映しているようにしか見えないのです。
レザーフェイスやヒッチハイカーは、わかりやすいキチガイですが
もっとも脱力感を伴うキチガイは
ガソリンスタンドを営む長男ドレイトン(ジム・シードー)ではないでしょうか。
サリーをほうきで叩くのもまぬけですが
サリーを車に乗せたあと、消し忘れた店の電気を消しに戻る、
一見無駄なように見えるカットで
ドレイトンが日常的に狂っていることを示しています。
外見はまともそうに見えますが
出っ歯が下品だし、麻袋を被せたサリー(マリリン・バーンズ)
車の助手席に乗せて運ぶあいだ、
はしゃぎながらサリーを棒でつつくシーンが
絶望感に溢れています。

恐怖の晩餐シーンでも、他のシーンと同様に
ものすごい暴力描写があるわけではないのに
絶体絶命な恐怖を味わえます。
キチガイたちのはしゃぎっぷりに加えて、
すぐに仲間割れしてケンカを始める連中に
わずかな良識のかけらを期待することすら不可能です。
じい様(ジョン・デュガン)サリーの指先の血を舐めるシーン
気持ち悪さといったらこの上ないのですが
サリーの頭をハンマーで殴ろうとして、
なかなか殴れないシーンも、他に類を見ないじらしの恐ろしさです。

逃げるサリーにどっぷり感情移入して観ていた僕にとって
ラストは息が上がりそうになるのですが
サリーを取り逃がしたレザーフェイスが
朝焼けの中で「チェーンソー・ダンス」とも言うべき
狂気の舞いを見せるラストシーンは美しく、
なんともいえない安堵感と無力感でいっぱいです。

『悪魔のいけにえ』は
エド・ゲインによる猟奇殺人事件をモデルにしたとされていますが
監督本人は否定しています。
とはいえ、実際の事件と酷似していることも多いので
なにかしら影響を受けているのかもしれません。

ところで、Blu-Rayには特典映像が2時間ちかく収録されていたのですが
そのなかで初めて知ったことがありました。
俳優たちの中には既に亡くなった方もいるのですが
特殊メイクをほどこしたじい様の中身であるジョン・デュガンは
なんと、当時20歳のイケメンだった!
そして、レザーフェイスを演じたガンナー・ハンセンは
もともと役者志望ではなく、文筆業を志していて
ひとときの経験のためにこの作品に参加したとのこと。
現在は念願かなって文章を生業とされているようです。

この作品の類い稀なる価値が認められてか、
芸術性を理由にマスターフィルムが
ニューヨーク近代美術館に永久保存されているそうですが
アートのお偉方に認められたからといって
急に襟を正す必要はありません。
ただ、ウン十年ぶりに観てみて
自分のかつての熱狂に肩すかしをくらうかと思いましたが、それどころか
改めて、やっぱこの作品はすげえやという思いを強くしたのでした。

直接的なゴア表現も血の量もそれほど多くありません。
それでもこれほどまでに恐ろしいのはなぜだろうと考えてみるに
結局、人間にとってもっとも恐ろしいのは
「理解できない」ということではないでしょうか。
なにしろ、40年前の映画なので
若い人に中には、この作品をみくびっている人がいるかもしれませんが
どうぞ、一度ご覧あそばせ。パないから。





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