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絞殺

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(日本/1979年 116分)
製作・監督・脚本/新藤兼人 撮影/三宅義行 編集/戸嶋志津子
出演/西村晃、乙羽信子、狩場勉、会田初子、岡田英次、殿山泰司、小松方正、草野大悟、渡辺とく子、根岸明美、初井言栄、戸浦六宏、森本レオ

概要とあらすじ
突然暴力をふるいだした有名高校に通う息子を、生命の危険に脅やかされた父親が耐えかねて絞殺したという実際に起った事件をもとに映画化。脚本・監督は「竹山ひとり旅」新藤兼人、撮影は「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」の三宅義行がそれぞれ担当。 ある夜明け、狩場保三は、熟睡中の息子、勉を絞殺した。妻の良子は、ふるえながら夫の顔を見つめていた。一瞬、良子の脳裡に、勉との楽しかった日々の数々がパノラマのように浮かんで消えた。夫婦は、息子を一流高校に入れるため、校区に家族で転居し、ある駅前でスナックを経営していた。保三が勉に話すことは、東大へ入るんだ、エリートコースを踏みはずすなということのくり返しであった…(映画.comより抜粋)



おまえはくだらないやつだ!

1977年10月30日、東京都北区で実際に起こった
「開成高校生絞殺事件」をベースに作られた新藤兼人監督の作品。

勉(狩場勉)がウイスキーをガブ飲みし、
その瓶を投げつけるのを正面から捉えたカットで始まり、
意を決した父・保三(西村晃)が二階の部屋で寝ている勉の元へ赴き、
浴衣の帯で勉の首を絞めて殺します。
その間、階段の下にいた母・良子(乙羽信子)
廊下で失禁してしまいます。
このように始まる物語は、時系列を遡り
やがて狂気にまみれる一家の過程を描いていきます。

父親や教師のセリフなど
当時の学歴至上主義競争原理主義をかなり誇張した表現で
伝えていますが、当時はそれがそれなりに真実だったのです。
当然、そのような風潮を警戒する意見もあったでしょうが
社会のシステム自体がそうなっている以上、
いい大学に入ることが将来を約束するという
父親や教師の意見は時代に即したものだったのでしょう。
(どうでもいいが、タクシーの初乗りが¥330!)
いまや、大学を卒業したからといって
就職先が見つかるとは限らない時代ですが
だからといって、大学に行くなんて馬鹿馬鹿しいから
高校を卒業したらすぐに就職したほうがいいとまではなっておらず
根本的なところで大学信仰というものは
残っているのではないでしょうか。

加えて、父・保三の言動は
いまや見る影もなくなった家父長の尊厳を感じさせ
それが余計に勉に対する抑圧となっているのです。
とはいえ、息子から見た父親というやつは
いつの時代も傲慢で横暴に感じる存在で
演出が誇張されているとはいえ
僕は父・保三の態度にさほど違和感を感じなかったのですが
(正しいと思っているわけではなく、あんなもんだと)
勉はそうではありませんでした。

父と母の夜の営みを覗き見たりするうちに
性欲を持て余した勉は
想いを寄せるクラスメイトの初子(会田初子)に対して
ほぼレイプで迫るも振り切られ、
しつこく初子の家に行くと、そこで初子は義父に抱かれているのです。
積年の恨みから義父を殺した初子は
蓼科に勉を呼び出し、雪が積もる林の中でめでたく合体。
(すげえ寒そうなんだけど)
ひとり家に戻った勉は、その後初子が自殺したことを
ニュースで知るのですが、このあたりから急激に
勉が暴力的になっていきます。

父・保三に向かって「おまえはくだらない」「汚いやつだ」
罵り、暴れ回る勉の姿は文字通りエディプス・コンプレックス
理屈もへったくれもありません。
僕はもう、勉の言動に腹が立って腹が立って仕方がなく、
勉のハーフっぽい顔立ちが嫌悪に拍車をかけるのです。
勉は自分が好きだった初子が、義父に体を弄ばれた末に
自殺してしまったことで失意のどん底にいるわけですが
それが父・保三への人格否定と暴力に到る心の動きは
まったく共感できるものではなく
発狂したとしか言いようがありません。

このあたりまでは、誇張された演出ゆえ
抑圧された社会に対する若者のアンチテーゼという
安易な社会批判と捉えられそうで
実際、ちょっとがっかりし始めていたのですが
徐々に母・良子の存在がクローズアップされ始めると
物語はのっぴきならないものに変化していくのです。
幼少の頃から勉を過保護に育て、溺愛してきた母・良子は
父・保三よりも勉のほうに愛情を傾けていますが
ついに勉が近親相姦未遂を起こし、
冒頭の勉を絞殺するシーンへと到るのです。

執行猶予4年という判決で家に戻ってきた父・保三は
ずいぶんとあっけらかんとして見えますが
母・良子はすでに何かが壊れ始めています。
和服にサングラスという出で立ちは強烈に異様で
少しずつ語られる過去では、
初子に対して嫉妬心を燃やすなど
母・良子の勉に対する愛情は
すでに親子の愛情ではなくなっているのがわかります。
保三と布団を共にするのを拒否した良子は
死んでしまった勉のベッドでパンツを下ろし、
オナニーを始めるのです!


勉を絞殺することに自分も同意したにも拘わらず
保三に「勉を返してください!」と詰め寄るようになり
「勉がやったことは私にはよくわかります」
という遺書を残して自殺してしまいます。
(ゴミ箱の伏線を回収して)

抑圧された社会に対する反発に始まり
徐々に母と息子の異常性愛へと到る物語には
強く惹きつけられました。
それにしても、乙羽信子の怪演はすさまじく
冒頭の失禁から、風呂場での全裸シーン、
息子との近親相姦(未遂)とついにはオナニーシーンまで

79年度ヴェネツィア国際映画祭女優賞受賞も頷ける
まさに女優魂を感じる演技でした。

近所のおせっかいな野次馬住民を演じる面々も
殿山泰司、小松方正、初井言栄などなど個性的な役者ばかりでしたが
良子が家を出て、待ち受けるこの野次馬たちと遭遇するシーンでは
シャワシャワシャワというSEがつけられていました。
登場する野次馬たちは5〜6人ですが
あのSEで、世間から大量の好奇の目で見られていることを
表現しているのではないでしょうか。

加藤登紀子の「鳳仙花」がくりかえし流れていましたが
この歌はもともと朝鮮半島の歌のようで
切ない恋の歌といったところでしょうか。

実際に起きた「開成高校生絞殺事件」について調べてみると
意外にもこの作品はかなり事実に即して作られているようです。
勉が寝るときに母・良子に足をさすってもらう描写
「どのくらいで治りますか」と聞かれた森本レオ扮する医者
「私は予想屋ではない」と答えるセリフ、
絞殺に使われたのが帯だったこと、
そして息子の部屋で首を吊る母親など。
事件を忠実に追いながら、そこに潜む心理を描いて見せた
なんとも人に勧めづらいけど勧めたい怪作です。
(映画で描かれていない事実には、息子に対する治療に
 電気ショックまで施されていたそうで、
 この事実はまさに『時計じかけのオレンジ』ではないか!)

残念ながら、新藤兼人監督は昨年亡くなられましたね。
なんと100歳。しかも老衰。
ご本人は名残惜しかったかも知れませんが
今時、100歳まで生きて老衰で死ねるなんて
見事な大往生で、うらやましく思います。
ご冥福をお祈りいたします。





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