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コンプライアンス 服従の心理

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(原題:Compliance 2012年/アメリカ 90分)
監督・脚本/クレイグ・ゾベル 撮影/アダム・ストーン 美術/マシュー・マン 編集/ジェーン・リッツォ 音楽/ヘザー・マッキントッシュ
出演/アン・ダウド、ドリーマ・ウォーカー、パット・ヒーリー、ビル・キャンプ

概要とあらすじ
2004年、米ケンタッキー州のファーストフード店に警察官を名乗る男から電話があり、従業員だった少女が窃盗の濡れ衣を着せられ、身体検査と称して性的行為を強要された事件を映画化し、権威へ服従してしまう人間の心理を描き出したサスペンス。アメリカのあるファーストフード店で店長を務めるサンドラのもとに、警察官と名乗る男から電話が入る。男は女性定員のベッキーに窃盗の疑いがあると言い、サンドラに対してベッキーの身体検査を命じる。警察官の言うことならばと指示に従ったサンドラだったが……。監督は本作が長編2作目の新鋭クレイグ・ゾベル。(映画.comより)



ホントに自分の頭で考えてます?

「コンプライアンス」という、よくわからない日本語英語は
「法令遵守」と訳されることが多いので
「会社は法律を守ろうね」などと当たり前のことを
なにをいまさら言ってやがると思っていたのですが
「コンプライアンス」という言葉には
法律違反だけではなく、たとえ違法ではなくとも
会社の信用を損なうような非常識な行為は慎もうという意味も
含まれると聞いて、余計になんだとこのやろうと思ったのです。
何が非常識か話し合うこと自体が既に非常識なのですが
こんな皮肉は某居酒屋チェーンの社長などには理解できないんでしょうな。
この『コンプライアンス 服従の心理』で用いられている
「コンプライアンス」の本来の意味は、服従・従順です。
(それにしても、なぜ映画のタイトルに
 やたらと副題をつけたがるのでしょうかねぇ?
 同名タイトルの別作品と区別する意図があるならともかく
 何の効用もないと思うのは僕だけかしら?)

映画では「ファーストフード店」として
具体的な店名は伏せられていますが、
実際の事件が起きた店はマクドナルドです。
「ケンタッキー州のマクドナルド」というところが
若干わかりづらくて、いらっとしますが、
なにしろ同様の事件が70件以上も起きているということですから
この作品で取り上げられた事例が特別なものではないことが
人間の心理の理不尽さに説得力を与えます。

映画を観る前に、やたらとネタバレを気にする人がいるようですが
この作品を説明しようとすれば
「○○という実際に起きた事件がもとになっててね。
 その事件って言うのは○○でね」と言うほかなく、
それはネタバレどころか、この作品のほぼ全てです。
最大の被害者であるベッキー(ドリーマ・ウォーカー)
はたして本当に盗みを働いたのか! どうなんだ! 
というミステリーの要素は全くありません。
なにが起こって、なにがどうなるのかは
映画を観る前からほとんどわかっていると言ってもいいでしょう。
じゃあ、つまらないのか……面白いんだ、これが!

実際に起きた事件を、単に表現のモチーフとして扱うのではなく
その事件そのものが提起する問題を
表現しようとした作品がいつもそうであるように
もしも『コンプライアンス 服従の心理』で描かれていることが
創作されたストーリーであったなら
ご都合主義的な展開に鼻白んだかもしれません。
ところが、これは実際に起きた事件なんだと事前に知っている観客は
常にそのことが頭によぎり、
登場人物たちの不可解な行動を目にしても
そんなわけないじゃないかと文句をつけられなくなるはずです。

そのように、事実であることが最も説得力を持っているのですが
公式サイトでクレイグ・ゾベル監督
「全ての意思決定権を権力者に明け渡せば、
 事件に関与した責任を問われないのだろうか?」
と言うように
冒頭のシーンから、店長のサンドラ(アン・ダウド)
人間的・立場的な弱さが強調されているのは
監督の意図に沿った脚色ではないかと思われます。
店長としての資質に疑問を持たれているサンドラは
名誉挽回のためにも自分の店は自分が仕切らねばならないという
危機感を抱いているようです。
さらに、従業員の誰かが冷凍庫のドアを閉め忘れて、
食材をダメにしてしまった前日の問題

サンドラの従業員に対する不信感の裏付けになっています。

まだ事件が起こる前の店内で、
ベッキーとサンドラ、副店長の3人が無駄話をするシーンでは
それぞれがバストショットで、
決して会話をする3人を同時に捉えないカメラワークが
さほど円満とは言えない職場の雰囲気を表していましたが
そこで語られるベッキーの男性関係が
ベッキーが「チャラい」ことも印象づけようとしています。

ついに恐怖のイタ電がかかってきて
事態は徐々にエスカレートしていくのですが
ダニエルズ警察官(パット・ヒーリー)を名乗る電話の主に、
サンドラが少しずつ洗脳されていく間
環境音と思うほど小さく低い音で劇判が流れ続け
知らず知らずのうちに緊迫した状況に引きずり込まれます。
やがてサンドラがベッキーの洋服を持って
駐車場を歩くシーンになって、解放されたかのようにBGMが鳴り
事態は後戻りできないところまで来たことを告げています。

ダニエルズ警察官を名乗る電話の主の会話術は
絶妙としかいいようがありません。
交通事故における路上での取り調べでも、
とにかく怒鳴り散らす高圧的な役の警官と、
優しくなだめすかす役の警官との二人組がいるのはよく知られたことですが
このイタ電の犯人はその両方をひとりでやっています。
「敬語を使え。口の利き方に気をつけろ」と脅したかと思うと
「君は本当によくやっている。頼りになる」
相手の(とくにサンドラの)自尊心をくすぐるのです。
サンドラは、電話の主が「逆らえない人」であり
同時に「自分の理解者」でもあるという考えに陥り、
電話の主に気に入られたいという心理が働いたのではないでしょうか。

あくまで無実を主張するベッキーに対して
「ダニエルズ警察官があなたを名指ししているの!」という
サンドラのセリフがありましたが
そもそも最初に電話がかかってきたときの会話では
電話の主「えーっと、カウンターの、金髪の若いコ……」
サンドラ「……ベッキー?」
電話の主「そうそう、ベッキーだ」
というやり取りだったことから、
ベッキーの名前を口にしているのはサンドラなのですが
オレオレ詐欺とまったく同じで
サンドラは自分から相手に情報を与えていることに気づいていないのです。
さらには、自分の否を認めたくないという心理も
作用しているように思われ……怖いですねぇ。

「ミルグラム実験」の詳細は省くとして
「仕方がない」という、自己責任を放棄する根拠を手に入れた人間が
ここまで常軌を逸した行動をとってしまう精神状態には
強迫観念とは別に、人間が理性で抑え込んでいる
禁忌を犯したいという欲望が大きく影響しているように思います。
「客の金を盗んだ」という疑いをかけられたベッキーが
サンドラの婚約者ヴァン(ビル・キャンプ)
アレをナニして、一体なにが解決するのかさっぱりわかりませんが
そもそも何が問題だったのか忘れさせてしまうほど
精神的に追い詰められていたということなのでしょう。

事前情報によって、この作品がどういう内容なのかは
わかっていたのですが
逆に、この話をどうやって終わらすのか気になっていました。
結果的には、犯人逮捕から後日談まで丁寧に語られていたのですが
ものすごく急ぎ足で律儀に説明した感は否めず、
もっと投げやりな終わり方でもよかったんじゃないかと思います。
むしろ、イタ電の犯人は声だけの出演だったとしたら
もっと違う恐ろしさも味わえたように思います。

僕も大好きな『狼たちの午後』
『ある戦慄』などを参考にしたというこの作品を
社会問題を提起する「社会派映画」と評しても間違いないと思いますが
先述した音の使い方をはじめとして
ファーストフード店が夜になっても、電話の主の周囲はまだ明るいことで
かなりの遠距離からの電話であることをさりげなく示したり、
やっとこさ登場した本物の警察官が
車で警察署からファーストフード店に到着するまでを
ワンカットで捉えたシーン
が印象的なうえに
警察署とファーストフード店の距離の近さを示していたりと
その巧みな表現には引き込まれました。

こういう理不尽な内容の映画を観るときには、いつも
腹が立って腹が立って、いてもたってもいられなくなるのですが
今回もやっぱりいつもの通りに
「だったら、こっちから警察行ってやるよ! ばかやろー!
 サンドラこのやろう! てめえ、あとで後悔しても遅ぇぞ!」
と、声が枯れるほど心の中で叫んでおりました。

この作品に登場する人たちを馬鹿だというのは簡単。
でも、ホントにいつも自分の頭で考えて行動してます?





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