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苦役列車

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(2012年/日本 113分)
監督/山下敦弘 脚本/いまおかしんじ
出演/森山未來、高良健吾、前田敦子、マキタスポーツ、田口トモロヲ

あらすじ
西村賢太による2010年・第144回芥川賞作を「天然コケッコー」「マイ・バック・ページ」の山下敦弘監督が映画化。昭和の終わりの酒と風俗におぼれる日雇い労働の青年の姿を通して、孤独や窮乏、生きる力について描き出していく。1987年、中卒で19歳の北町貫多は、日当5500円の日雇い労働でその日暮らしの生活を続けていた。生来の素行の悪さと性犯罪者だった父をもつ引け目から友人も恋人もいない貫多だったが、ある出会いによって大きく変化していく。主演は「世界の中心で、愛をさけぶ」「モテキ」の森山未來。貫多が港湾労働で知り合い、貫多に変化をもたらしていく専門学校生・日下部正二に高良健吾が扮する。映画オリジナルのヒロイン・桜井康子役で「AKB48」の前田敦子も出演。(映画.comより)



列車はどこへ行った?

北町貫多に扮する主役の森山未來は1984年生まれ。
つまり、2012年現在28歳で19歳の北町貫多を演じていることになります。
28歳の男に19歳の少年を演じさせるというのは
少子高齢化を突き進む我が国において、
「歳なんてとっていません」としらばっくれて高齢化を認めないという
1つの有効なモデルを示しているのではないかと思えます。
(真に受けないでください)
森山さんには、いったい何歳まで10代を演じることができるのか
「永遠の高校生」こと妻夫木聡
丁々発止やり合っていただきたいものです。

さて。
どうみてもかなりエンキセントリックな顔立ちの森山ですが
なぜか二の線の役柄が多く、憤懣やるかたない気持ちでいたのですが
この北町貫多役は(年齢を除いて)はまり役でした。
肩をすくめた姿勢、歩き方、理屈っぽいしゃべり方など
すべてがルサンチマンの悪臭を放っていました。

父親が性犯罪で捕まったうえに一家離散して中卒で働き始めた貫多は
素行が悪いとは言え、犯罪に手を染めているわけではなく、
19歳になるまで自活してきたのだと思えば、たいしたもんです。
彼が犯罪に向かわず、唯一の楽しみとして読書を選んだのは
本来の彼が持っていた知性とみるべきでしょう。

しかし、いかんせん社会に馴染めない。そりゃそうでしょう。
おそらくは、人に期待しては裏切られ、
また期待しては裏切られを繰り返しているうちに
他人は当てにできず、信用できるのは自分だけという、
性格というより考え方になっていくのは仕方がないことだと思います。
貫多が日雇い労働を続けるのは、将来の夢なんてあるはずもなく
安定した生活すら馬鹿馬鹿しいと思っているからでしょう。
貫多にしてみれば、将来の夢や安定した生活、
人と人とのつながりなんてものは、どうせ当てにならないものだからです。

「どうせ」という考えに囚われてしまった人間が抱える
絶望の闇とは本当に深いものです。
一度「どうせ」に捕まるとなかなか顔を上げることはできません。
これを周囲が「やさぐれている」なんて言うと逆効果です。
僕はこの「やさぐれている」という表現の
「人の怒りを半笑いで受け流す感じ」がもうほんとに大嫌いでして
この怒りさえも伝わらないのかと思うと本当に絶望的な気分になります。

……あれ、いつのまにか自分の話になっておるぞ……
「やさぐれている」なんてセリフは映画には出てこないのに。はは。

ええ、お察しの通り、僕は貫多にシンパシーを感じているのです。
さすがに貫多ほどには荒んではいませんが、
彼のいらだちが身に染みてわかってしまうのです。
すんません、社会不適合者で。

そして、現れたのが正二(高良健吾)です。
いかにも育ちの良さそうなサラサラヘアの男前。
登場した瞬間に「イケスカネーヤローダ」と思いましたが
正二は「良心」と呼べる存在でした。
最終的には正二の良心も貫多につき合いきれずに離れていきますが
正二が貫多の絡みに絡まった心の糸をほぐすきっかけになったのは
間違いありません。
正二は貫多が中卒であること、父親が性犯罪者であることを
何とも思っていません。
気にしているのはむしろ(というかやはり)貫多のほうです。
「僕が中卒だと思って馬鹿にしてるんだろ」と何度も言います。
社会から阻害されるあまり、気づいたときには
自分が社会を阻害しているという「どうせ」病です。
これが居たたまれないのですよ。
くーっ! ちょっとその辺走ってきます!

細かいところでは、日雇い労働の休憩中に
正二が飲んでいた缶ジュース(コーヒー?)のプルタブが
現在のぺこっと折り曲げるタイプではなく
昔の分離するタイプだったこと!
それをその辺に捨てずに人差し指にはめて飲む正二!
そうそう! 飲み終わったら缶の中にいれるんだよな〜
僕は14歳だから昔のことはよくわかりませんけどね
いや〜、懐かしいな〜! シャツ(トレーナーも)は必ずイン!
こういう細かい時代考証、いいじゃないっすか!

そして、もうひとりは前田敦子が演じる康子。
貫多は康子に惚れているのですが
最初、僕はイケメン正二が康子とできちゃうんじゃないかと思って
観てましたがそれは見当違いでした。
それじゃあ、さすがに貫多が惨めすぎ。
今度こそ犯罪に走りますよ。

キリストを超えたと噂の前田敦子ですが
この作品ではいい存在感だったと思います。
めでたくAKB48を卒業されて女優になるということで
いきなり主演をまかされて
周りをベテラン俳優で固めたりする映画に出るより、
こういう作品に出て女優としてのキャリアを積んでいくのは
好感が持てますね。
ただ、貫多のような男にとってはこういう女はまぎらわしいですよ。
男同士でさえなかなか友だちになれない貫多にとって
女友達なんてわけがわからんのですな。
雨が降る中、貫多が康子を道路に押し倒し、やらせてくれと頼む姿は
この作品に登場しない性犯罪者の父親を喚起させました。
前田敦子について、あまり多く語ると
どこから矢が飛んでくるかわからないので(キリストだけにね)
この辺にします。ふ〜。

正二と康子は、貫多にとって
「もしかしたら世の中は捨てたもんじゃないかもしれないかもしれない」
と思わせてくれる大事な存在ですが
ラストへ繫がる決定的な存在は岩男(マキタスポーツ)です。
はじめは岩男を鼻で笑っていた貫多ですが
ケガをして職も失ったにもかかわらず、
もう一度夢を追いかける岩男を見て
貫多は初めて他人に対して共感を抱くのです。

マキタスポーツ自身がお笑い芸人でありながら、
ミュージシャンとしての顔も持つ、まあいっちゃ悪いが
中途半端な夢追い人です。
岩男が「おまえら、夢を持てよ」と貫多たちにいうシーンは
妙な痛々しさがありました。
残念なのは、カラオケで他人のマイクを奪い取って歌う
マキタスポーツの歌のうまさが、「そこそこうまい」程度ということ。
そして、挿入歌でもある「俺はわるくない」という曲が
やっぱりたいしたことない曲だということ。
役柄を演じているはずなのに、マキタスポーツ本人が
哀れに見えてしまったのでした。ごめんよ、スポーツ。

僕は原作を読んでいないので、なんとも言えませんが
原作者の西村賢太はこの作品に納得はしていないようです。
まあ、原作をその通りに映画にしても面白くなるとは限らないのですが
映画化された作品に対して原作者が文句を言うのはよくあることです。

しかし、西村氏はこの作品に対して、こう言っています。
「苦役の意味、列車の意味。
 この肝心の点が拙作の意図するところと乖離し、
 顧みないこの映画に、「苦役列車」を原作に使い、タイトルに使い、
 自分の分身をも主人公に据えた真実の意味が、
 果たしてどれほどあるものだろうか」

 (wikipediaより)

確かに、この言葉には納得します。
「苦役」の部分はわかるけれども、「列車」の部分は
「しゅっぽしゅっぽ」と効果音が入るシーンがあるだけで
適切に描かれているとは思えません。
原作ものを映画化する際には、上映時間の制約があり
端折る部分が出てくるのは必然ですが、ただ端折って短縮するのではなく
端折ることによって映画ならではの別の価値観を生むべきです。
原作が芥川賞をとったことで、
原作の存在を知っている人が多いのかもしれませんが、
もし原作の存在を知らなければ「列車」の意味は全くわかりません。
西村氏が言うように、
原作にある「列車」の意味を表現しないのであれば
映画のタイトルは別のものにすべきだったと思います。

「芥川賞作品を映画化するんだから
 映画のタイトル変えたら売りにならねえし、
 小説の版元がOKっていうわけねえだろ?」
という邪悪な大人の声がどっかから聞こえてきましたよ。今。

ちなみに。映画館では
スナックで西武ライオンズの帽子をかぶったおっさんが出てくるシーンで
笑いがおきました。
僕は元西武のプロ野球選手なのかな?と思いましたが
調べてみると、演じているのは花岡じったというAV男優で、
この男が往年の西武のエース石井貴にそっくりなんだとか……

知らんわ!!





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